ギルス第2話5


なんだかんだで、ジョセフや局長の説得で
初走行を引き受けてくれる機関士が見つかった。
助手のアルフレートが一緒に乗ることになった。
そして、一ヶ月後。
無事クイーン・ミリセントが完成したという知らせが届いた。

「じゃ、行ってくるね」
ビュッケは大型トラックの荷台に固定された。
「泣きわめいてミリセントに迷惑かけんなよ」
セルバンテスがからかった。
港では貨物船:
マークトゥエンティ号が待っていた。
「さあ、海の旅へ出発だー!」
太い汽笛が響き、船が動きだした。

(20分後)

「うえっぷ・・たしかにじっちゃんの言った通りだ」
「あなた、気持ちわるくなったの?」くすくす
一緒に積まれていた車が話しかけてきたが、
ビュッケは返答しなかった。
それから2日間、小さな機関車は船に揺られることになった。

無事、アクア・リバーズの港についた。
「ああ、きもちわるかった・・」
船酔いでふらふらしながら、ビュッケは地面におろされた。
見覚えのある人が待っていた。
「ビュッケ、久しぶりだな。元気そうでよかったよ」
「おっちゃーん!」
作業長のロベルトとの再会だった。
「クイーンミリセント、完成したんだって?」
「ああ。走行テストもすんだ。これでバッチリだよ。・・・あ、」
「どうかしたの?」

そして作業長の運転する
トラックに運ばれて、工場についた。
「お前は、自分から話しかけてきただろ?
でもこの機関車はこちらが話しかけてもうんともすんとも言わないんだ。」
「そうなんだ?」
彼は、完成した機関車を見上げた。
作業長は笑い出した。
「まあ、おかしな話だよな。もともと機関車なんて口をきかないものじゃないか。
こうやってお前と話ができるってだけでも不思議なことだろう?
でも、ちょっと寂しいかな。
こいつとも、お前みたいに話しができたら、とみんな楽しみにしていたからさ」
「・・・」
「さ、今夜はしっかり休むんだぞ。
明日はお前を荷台に積み上げないといかん。ミリセントに引っ張ってもらうと同時に、
先輩として色々教えてやってくれ」
「はい!」
彼が返事をすると、作業長は準備のために作業員たちを集め始めた。

車庫には彼と新しい機関車が残った。
ビュッケは新しい機関車を眺めていた。
と、突然声がした。
「小さいな。」
「・・へ?」
「小さな機関車だときいていたが、本当に小さいんだな」
また声がした。
「・・・クイーン・ミリセント号かい?」
ビュッケは確かめた。
「・・・」
返事にはやや時間があった。
「・・・そうだ」
ビュッケは安心した。
「なんだ、話せるんじゃないか。」
作業員たちの話を聞いて
どう話しかけていいか迷っていたところだった。
ひょっとしたら、話すのが嫌いなのかもしれないとも思ったところだ。
「おれはビュッケ・バロン。あんたと同じギルス製の機関車だよ」
「ああ、小さい機関車のビュッケバロンだな」
「あのさ・・しょっぱなから『小さい』『小さい』っのはちょっと・・」
ミリセントははっとした。
「気にしていたのか?」
「そりゃ 会っていきなりそう言われたらねぇ」
小さな機関車は文句を言った。
「すまない。そんなつもりはなかったんだ」
大きな機関車が謝った。
どうやら、ただ見て思ったことを言っただけだったらしい。
「まあ、いいけど?」
ビュッケは笑顔になった。
「これからどこへ行くか聞いてる?」
「ああ。中央市だろう?アクア・リバーズを出て5つ駅を隔てたところにある町。」
「わかってるんじゃん。じゃ、大丈夫だな」
「だが、・・」
ミリセントは心配していたらしい。
「無事スコーピオ駅を越えられるだろうか」
「あそこのことも知ってるんだ」
「シルバーデューク号がお前を運ぶときに、砂漠の中間地点で故障を起こしたんだろう。
それで、局長は彼をアクア・リバーズへ行かせるのを中止した。
わたしを船で運ばせる案もだされたが、それには費用がかかる。
そこで、わたし一台を直接線路を通って中央市にいかせることが決まったんだ。
ただし、・・」
「おれをいっしょに運ぶってことでね」
「ああ。そのため、お前は船に運ばれてここへ来たんだと聞いてる」
「線路がありがたいと思ったね・・ひどい乗り物だったよ?」
ビュッケは船の中にいた時のことを思い出した。
「シルバーデューク号が止まった場所を、無事走れるかどうか・・」
「心配するなよ。じっちゃんは年寄りだけど、ミリセントは最新型じゃないか」
ミリセントは少し間をおいて言った。
「・・わたしはまだ工場の敷地内しか走ったことがない。
にも関わらず、最初の走行が長距離なんだ。
おまけにあの砂漠を通らなければならない。
だから・・」
「・・・」
何かを言いたかったようだが。
その先は言わなかった。
なんとなく、声が重かった理由がわかった。
ビュッケは自分がこの町を出たときのことを思い出した。
その時は、シルバーデューク号が迎えに来てくれた。
たわいもない話や冗談を言いながらだったし、移動は楽しかった。
今度は、船に乗せられてここへ来た。
そして、ミリセントの初めての長距離走行で中央市に戻る。
彼はため息をついた。
「大丈夫か?」
ミリセントが声をかけてきた。
「おれはどうせ、大きな機関車や船に運んでもらってますよ・・」
彼はへとへとだった。長旅の疲れが出てきたらしい。
「・・ビュッケバロン」
「なんだい?」
「わたしは、ひとりで中央市へ行くことになって、夜も眠れなかったんだ。
でも、この3日間は久しぶりにゆっくり休むことができた」
「へー。よかったじゃんか。」
・・3日間?
ビュッケはどきっとした。
「実は、中央市についたら、女王陛下にお会いできることになったんだ」
「・・そっちかよ」
「?」
「いえ、こっちのこと」
ビュッケはあわてて付け加えた。
「いや、おれが行くって知らせがそっちに届いたのがちょうど3日前なんじゃないかなぁって。」
ミリセントはビュッケをにらんだ。
「お前が来たところで何の支えになるというんだ?」
「言うなぁ。こっちは一応お前を心配してだなー!!」
そこまで言って、ビュッケは情けなくなってきた。
「で、お前は陛下に会いたいわけ?」
ミリセントはうなずいた。
「ふぅん。確かに、なんかよく名前を聞くよな。」
ビュッケはとくに、陛下に興味はなかった。
「素晴らしいお方だ」
ミリセントは目を輝かせて言った。
そして、
「わたしはあの方から名前を頂いたことを誇りに思っている」
真剣な声で言い切った。
「大袈裟だなぁ」
ビュッケはあくびをしながら言った。
「おれは名前の由来なんてどーでもいいですよ」
「・・・」
ミリセントは、ビュッケを見た。
「なんだい?ひとのことをじろじろと」
「小さい機関車だな、と」
「しつこいな!」
二台は笑い出した。そして、
「明日はよろしくな。」
「こっちの台詞だぜ」
そう言うと、眠りについた。




EDIT[2008/07/11 00:47] 鉄道ギルスComment:0

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